4003220528 マクベス (岩波文庫)
シェイクスピア Shakespeare
岩波書店 1997-09-16

ミステリー戯曲である。普通に読んでも飽きさせるところのない快作でもあるのだが、ちょっとした台詞が実は続く展開や物語全体を暗示していたり、ちょい役と見せかけて……といった、謎解き欲を刺激する仕掛けがたくさん書き込まれている。その中でもミステリーとして読む、というのがなかなかおもしろくて、『マクベス』は何人も人の死ぬ戯曲、探せばミステリー要素もたくさんあって当然(?)なのだが、例えば「バンクォーを殺したのは誰か?」という謎について。バンクォーというのは主人公・マクベスの同僚であり、マクベスと共に魔女三人の予言、マクベスの運命を示す予言を聞いた重要人物である。魔女の予言の中では、マクベスが王になる、と言われるのにも関わらず、バンクォーの子孫が王になる、とも言われる。この予言はミステリー風に言えば立派な殺害動機であり、結局バンクォーはマクベスによって差し向けられた刺客に殺されることになるのだが、ここがすごく怪しいのである。

バンクォー暗殺は第三幕において起こる。三幕一場でマクベスが刺客にバンクォーの殺害を依頼するのだ。しかしおもしろいことに、実際に「殺人」の行われる第三場では、刺客が三人に増えている。

刺客1 だが誰が一所にやれといった?
刺客3 マクベスよ。
刺客2 こいつ、疑うこともなさそうだぜ。話を聞くと、おれたちの仕事も役目もちゃんと知ってる。
(木下順二訳『マクベス』)

この刺客3は、『マクベス』に登場する貴族の一人、というかマクベスを殺害することになる男、マクダフなのではないか、と書いているのは『マクベス殺人事件の謎―他25篇 (1975年) (角川文庫) 』という本の表題作。この小説はマクベスを下敷きにしたミステリー小説なのだが、『マクベス』をより深く読ませる興味深い一作で、こちらで自身で翻訳して公開している方がいらっしゃるのでぜひ読んでみてほしい。

黒幕・マクダフ、という読み方をすると、第四幕第二場、マクダフ夫人と息子の台詞もおもしろい。

息子 お父さまは裏切り者だったの?
マグダフ夫人 ええ、そうだったの。
息子 裏切り者ってなに?
マグダフ夫人 それはね、立てた誓いを破る人。
(前掲書)

ここで言う「裏切り者」はもちろん表向きは王、マクベスに対する裏切りを指すものだが、しかし、彼の裏切っているものはマクベスだけだろうか……? 最後の場面で、マクダフはマクベスを殺し、その次たる王の最も信頼する男となっているが、その姿は冒頭の、ダンカン王の最も信頼する男、そしてダンカン王を殺すことになる男、マクベスにも重なっていないだろうか。『マクベス』を刺し貫く魔女の言葉、「Fair is foul, and foul is fair」が、幕の閉じた後にも不穏に響き渡っている。

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