またなんか書いちゃったどうも受験生です。これは、なんだろう。秋の微睡みに見た夢。なんちゃって。頭がおかしい時に書いた。

雨上がり
 からん、ころんと聴こえるのは、なんだろう。わたしを包み込むホワイトノイズのような雨音の合間から、まるで足元で鳴っているかのように響く、この音は。
 じめじめとした毛布をかぶって黄ばんだ壁に背をつけて湿って冷たい畳に座って、わたしは雨の音に溶かされて、からん、ころんに何度も微睡みを覚まされる。
 寒い。この家は、今まで住んだどの家よりもじっとりと寒くて、落ちつかなくて、暗い。段ボール箱のむこうから、かちゃ、と時々聴こえるリビングのお母さんのカップの音は胸を締め付け、かすかなコーヒーの薫りはわたしの頭を締め付けて、だから、わたしは動けない。ただただ毛布をかぶって静かに、寒さを身体に染み渡らせている。

 和箪笥からぬいぐるみが出てきて、わたしを襲う。襲って、右足を食べ、右腕を食べ、頭を食べる。あれは、夢だったのだろうけれど――このアパートでも和室の畳の上に置かれた和箪笥は、今もわたしを見下ろして、隙があれば食べてしまおうと、している。彼らは雨の音に紛れ込みながら囁きあっている。
 お母さん、恐いから、見てて――声は、出ない。縛られた胸が苦しくて、いや、そもそも口が開かないのだ。わたしは和箪笥の影を見つめ続ける。現実にぽっかりと開いた穴。
 わたしは彼らがわたしを食べてしまうのを待っているのだ。

 ――かわいそうだよ……。
 お姉ちゃんの声……お姉ちゃんが泣いている。
 ――ユキも、お下がりの制服なんか着たくないよ……。
 ユキ……わたしの名前。わたしの話をしている。気がつけば、和室の闇はさらに暗くなっていた。和箪笥はもう闇を纏ってしまって、だから彼らの囁きは聴こえなくなった。ホワイトノイズは鳴り続け、からんころんと転がる音も、もう聴こえなくなっていた。そっと、寝返りをうつと段ボール箱と黄ばんだ壁の隙間からリビングの光が見えて、赤いセーターを着たお姉ちゃんが見えた。お姉ちゃんは、目元を擦りながら、涙声で語りかけ続ける。
 しょうがないじゃない。なんたらなんたらなんだから。お母さんは気だるそうに言う。かわいそうだよ。なんたらに入れれば良かったのに。お姉ちゃんは涙声のまま、でも、怒っているみたいだった。

 ああ、何かがわたしに触れた。風か、闇か。おぞましく冷たいものが、わたしの身体を撫でた。
 助けて。ねぇ。
 言葉の出し方がわからない。呼吸の仕方がわからない。ねぇ、恐い、起こしにきてよ、わたしを連れだして――お姉ちゃんは目元をその赤いセーターの腕で擦り続け、お母さんはただため息をつく。背中を撫でるのは、闇。闇がわたしに触れる――背をむけてしまったからだ。ずっと、見つめ続けなきゃいけなかったのだ。からん。からん、ころんと、何かが、落ちる。隙間の闇に転がり落ちて、がらんどうの中で響く音。わたしはずっと、それを聴いていた。

「ねぇ、ユキちゃんは来世を信じる?」
 わたしはただ首を横に振った。彼女は見ていないと思ったけれど、そう、やっぱり、と返事をした。
 雨は昨晩のうちに止んだけれど、それでも、ホワイトノイズは聴こえ続ける。水溜まりは薫った。視界一面の空は薄い青色で、ひたすらに高くて、手を伸ばす気さえ、しなかった。コンクリートの冷たさは、ぜんぜん心地よくなかった。始めて着た制服は、思っていたよりもずっと優しかったけれど、少し優しすぎて、それに、わたしには重すぎた。
「わたしはね、信じてる」
「……そう、やっぱり」
 ――久しぶりに、心の底から言葉を発した。
「楽しいね、なんだか」
 彼女の言葉にようやく、空っぽの身体を風が流れて、じっとりと重い縄がほどけた。彼女はわたしの手を引いて、わたしはわたしの足で立った。そしてようやく、ホワイトノイズが消える。

カテゴリー:創作.
コメント:無し

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