『夕凪の街 桜の国』
こうの史代 双葉社より

“わかっているのは「死ねばいい」と誰かに思われたということ”

つい先日アメリカのオバマ大統領がプラハ演説において『核廃絶』をうたいノーベル平和賞を授賞しました。
実績がないやらなんやらで批判されているみたいですけど、ノーベル賞授賞云々に関わらず核のない世界を目指すと名言したことは素晴らしいことだと私は思います。

そんなおりに偶然図書カードで表紙買いした漫画がこの『夕凪の街 桜の国』でした。前情報無しの購入でしたが帯によると手塚治虫文化賞新生賞と文化庁メディア芸術祭賞を授賞したマンガ界十年最大の収穫だとか。以下感想。

戦後を生きる人々の機微を描いたほのぼのした漫画、だと最初は思った。しかし、彼ら彼女らの背景には『原爆』が重くのしかかっている。素朴な画風とほのぼのした雰囲気とのギャップが恐ろしい。

このようなことがただの虚構でなく現実であるのだから重く心に突き刺さります。世界唯一の被爆国である日本に住んでいながら、私も含めて、多くの人は「ヒロシマ」「ナガサキ」に原爆を落とされた、うん十万の人間が亡くなり何ヘーベーの土地が焼け野原となりいくらの人が『ピカの毒』に苦しんでいる、ということしか知らないのではないかと思います。

核の炎に焼かれたのは、ピカの光から病を持たされたのは、広島長崎にいた人々の肉体だけではない。彼ら彼女らの心、身体的には被害を受けなかった人々の心をずたずたに焼きつくしぼろぼろに蝕み続けている現実がある。

“わかっているのは「死ねばいい」と誰かに思われたということ”

非常に心に残っている、『夕凪の街』作中に出てくる言葉だ。今戦争が終わって平和となりつつある街で若い彼女は恋人とともにあるときに川を覆いつくす死体を見、踏みつけてむける皮膚の感触を思いだし、“おまえの住む世界はここではない”という声を聞く。

彼女たちの心には核の光の影が焼きつけられていて、それはおそらく消えない。その痛みは私の想像をはるかに絶するものであるだろうが、それでも思わずには、安っぽい同情という思いを向けずにはいられない。

“七波はその姉ちゃんに似ている気がするよ”
『桜の国』の最後、「ヒロシマ」の物語は印象的に幕を降ろす。その時まで、原爆はその暴力的な光をもって影を落とし続けている。

彼女たちの物語は終わらない。戦後六十年も過ぎ、直接被爆した方々は確実に亡くなっていく。しかし、原爆がもたらした影、重く鋭い闇は永遠に残り続けるだろう。そして私たちには、その闇を照らしまた二度と生み出さないという指名があるのではないだろうか。

核兵器のない世界。例え何年何十年多大な労力がかかろうと、ぜひ実現してほしいものです。宇宙の消え去るその時までいのちを繋ぎ続けることが私たち生命の唯一の使命、存在理由なのでしょうから。優しい画風とともに深く心に残り続ける、世界に誇るべき素晴らしい漫画でした。

夕凪の街桜の国 夕凪の街桜の国

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