Feb 07

アースシーの魔法=哲学と物語——『ゲド戦記』

2018年2月7日 朝霧

作家アーシュラ・K・ル=グウィンは『ゲド戦記外伝』の「まえがき」でこう語っている。

まったく実在したことのない、つまり一から十まで完全に虚構の世界を構築、あるいは再構築するときは、そのための調査研究は実在の世界のそれとは順序がいくぶんかちがう。けれど根底にある衝動や基本的な技法に大差はない。まず、どんなことが起こるか、見る。そして、なぜ起こるのか、考える。その世界の住人がこちらにむかって話すことに耳をかたむけ、彼らが何をするか、観察する。次にそれについて真剣に考え、誠実にそれを語ろうと努める。そうすれば物語はちゃんと重力を持ち、読む者を納得させるものになっていく。

ファンタジーの古典的傑作を三つ挙げるとすれば、出版順に、『指輪物語』、『ナルニア国物語』、そして『ゲド戦記』であるとよく言われる。『オズの魔法使い』が入ったり、最近では『ハリー・ポッター』がもはや古典と呼ぶべき作品となっているが、『ゲド戦記』は例えばその『ハリー・ポッター』の世界観にも大きな影響を与えている。そのような意味で『ゲド戦記』は間違いなく古典的であるのだが、その古典的凄みはやはり、その強靱な哲学の構築(調査研究)と、それを基盤とする強靱な物語から来ている。

『ゲド戦記』と、邦題(原題は『Earthsea』(アースシー)で、物語の舞台である世界の名でもあり、その海と多くの島々からなる世界にふさわしい名だ)にその名を冠しているゲドは、比類なき力を持った魔法使い(大賢人)として設定されており、主人公として、あるいは重要な補助役として活躍するのだが、しかしその力には限界がある。そして、『影との戦い』から『さいはての島へ』に至るまで、協力者にめぐりあうことで、どうにか危機を脱するのである。協力を得、危機を克服するという、よくある・あるいはできすぎた物語だと言えばそのとおりなのだが、しかし、このような物語は、『ゲド戦記』においては哲学でもある。体系的な哲学に従っているからこそ、『ゲド戦記』の物語はできすぎているのだ。

『ゲド戦記』の哲学は魔法や竜について語られることによって語られる。「古のことば」や「神聖文字」といわれる、特別な言語によって発動する魔法は、どこか世界のプログラミング言語を思わせSF的でさえあるのだが(実際にル=グウィンはSFにも傑作を残した)、そこでは、光と影、生と死、ことばと静寂といった二項対立と、その均衡、あるいは弁証法が大きく作用している。『ゲド戦記』の世界アースシーにおける魔法は何でもできる力などではなく、様々な二項対立の均衡の中で、特別なことばによって行われる。言い換えれば、均衡を破ることも、そのことばを超えたこともできない。そうした魔法である。

その在り方は、二項対立とともに発展してきた哲学の組み立てにも似ているように思う。そしてそうした魔法を基盤に展開される物語は、哲学の展開にも似ている。それが定番の物語に帰着するのは、哲学が弁証法的に進んでいくかのようだ。つまり、アースシーにおける魔法=哲学に従って物語が展開されるからこそ、物語にはあるべきところにあるべきものが、いるべきところにいるべき者が配置され、なされるべきことがなされるのだ。『影との戦い』から『さいはての島へ』までに繰り広げられた二項対立と弁証法の哲学は、『帰還』以降ではフェミニズム批評、脱構築批評にさらされもするが、それさえ魔法=哲学体系の強化に過ぎない。『A Wizard of Earthsea』(『影との戦い』)の冒頭に付された詩は、こうした二項対立を基とする魔法=哲学体系を簡潔に表現したものであると言えるだろう。

Only in silence the word,
only in dark the light,
only in dying life:
bright the hawks’s flight
on the empty sky.
——The Creation of Ea

『ゲド戦記』の魅力はその強靱さにある。『影との戦い』から一貫して、その強靱さが傷つけられることはなく、むしろ強められていく。ル=グウィンの語るように、こうした確固たる体系を構築し、「調査研究」された上で物語られることこそ、ファンタジーの傑作の条件であり、古典の条件だろう。

※2018年1月22日、この偉大な作家アーシュラ・K・ル=グウィンの死。その前後、僕は不思議と(というか、ジブリ映画のテレビ放映の話を耳にしたからだろうが)『ゲド戦記』を読んでいた。『ゲド戦記』の緻密に構築された哲学体系には生と死の厳しい二項対立があり、「影との戦い」から明示的に、隠喩的に、繰り返し物語られるものの一つに、その止揚/あるいは脱構築がある。作家の死の前後に『ゲド戦記』を読んでいたことは、作中で魔法使いらが偉大な賢人の死を察知するように、何か偉大な作家/作品の魔術的な力がそうさせたのではないかと、つい考えてしまった。

タグ:, , , , . カテゴリー:感想・批評・レビュー,小説・戯曲.
コメント:無し

Jan 27

情報は一冊のノートにまとめるべきか?——『情報は一冊のノートにまとめなさい』

2018年1月27日 朝霧


奥野宣之『情報は1冊のノートにまとめなさい』

内容
 主張はわかりやすい。あらゆる情報は、一冊のノートにまとめられるべきだというものである。デジタル関係の話はやや古いが、Evernote等、デジタル手帳がかなり使えるレベルになっている昨今、ある部分では、かつて以上に著者の主張は説得力を持つだろう。しかし同時に、ある部分では、デジタル手帳の進歩が、もっと良い情報管理方法を示しているようにも思う。もはや万人にそのまま使える内容ではなくなってしまっているかもしれないが、しかしノート類の使い方について思考を促すという意味で、良書である。

一冊にまとめられたノートは使える/使えない
 一冊にまとめられたノートは確かに、「必ずある」という点で有用である。ノートを使い分けると、どこに書けばいいのかわからない、分類できない情報が出てくる。これは『「超」整理法』にも通じる当然の話である。デジタル手帳類(Google keep、Evernote、Day One、Workflowyなど)を使えば、紙のノートと比べると何でも書ける(描ける)という点で劣るようにはなるが、検索性にも優れたデータベースとなる。

 しかし、問題もある。一冊のノートにすべてをまとめてしまうと、参照まで時間がかかるのだ。いくら検索可能性が高くとも、例えば一月後のToDoを検索して探すような時間は、明らかに無駄だ。

 やはり、最低限の使い分けは必要であるというのが、読者である私の結論である。例えば私は、よく参照する情報と、いつか参照する情報で、情報を大きく二つに分類している。この程度の分類でも、どちらに振るべきか悩ましい情報は生じてしまうのだが、一応なんとかやっていけている。

 例えば、よく参照する情報として、ToDoやスケジュールがあるが、これは、筆者はToDo管理アプリと月間手帳・デイリー手帳を用いて管理している。スケジュールにも種類があるが、確実に時間の決まっているものは手帳に書き込み、そうでないものはToDo管理アプリに入力して定期的にリマインドさせるようにしている。私はなるべくアナログで済ましたい人間なのだが、リマインド機能だけは、アナログにやろうとすると手間がかかり(例えば43Tabか?)、デジタルに頼っている。

 また、いつか参照する情報には、日記、アイデア、思考、本や映画や様々な出来事の感想などがある。筆者は、日記だけは日記帳に書いているが、その他の情報はすべて、最終的にはEvernoteにまとめている。アイデアや思考、感想などというものは書き留めていくと際限がなく、高い検索可能性がどうしても必要となるからだ。

一冊のノートをどう使うか
 しかし、一冊のノートにまとめるという主張は、やはり説得力がある。デジタルであれアナログであれ、何でも書ける一冊を持っておくことは、やはり意味があると思う。

 実際私も、トラベラーズノートのパスポートサイズ(B7)を「なんでもノート」とし、まさしく何でも、そこに書くことができるようにしている。そして、先に書いたように、よく参照する情報だと判断されればしかるべき場所に転記し、チェックマークをつける。いつか参照する情報も、入力するか写真に撮るかしてEvernoteに転記し、チェックマークをつける。そして、書いてはみたものの参照しないであろう情報はそのままにしておく。最終的にはほとんどすべての情報が転記されるわけで、では不要かというと、どこに書くか悩む時間を考えれば、やはりこのようなノートを持っておくことは、有用だろうGTDに「インボックス」という考え方があるが、一冊のノートは、この「インボックス」の役割にぴったりなのである。

 また、私はアナログの「なんでもノート」や手帳を使っているが、スマートフォンですべてを済ませることのできる時代でもある。物にこだわってしまうのは私の悪癖だが、究極的には、最も無駄を省いた形は、すべてをスマートフォンで済ませる、その環境を整えることかもしれない。

タグ:, , . カテゴリー:感想・批評・レビュー,その他書籍.
コメント:無し

Jan 26

塾講師が勧める学習法まとめ:高校国語古文編

2018年1月26日 朝霧

はじめに
→古典学習について過去に書いた文章
理論上、古文常識、古文単語、(敬語)、文法の順に土台となる。その上で主語を見破る力を身につければ古文は読める。が、音読や通釈など、学校でやるような地道な学習による古文慣れも、間違いなく影響する。
古文常識は学校の先生が話してくれればそれで良いが、参考書で学習する場合は、世界観をなんとなく理解するつもりで、あっさり済ませればいい。古文単語は参考書が必須だが、後に挙げる『マドンナ古文単語230』一冊でも足り、英語ほど大変ではない。難しいのは文法、特に助動詞で、しっかり参考書をやらないとなかなか身につかない。逆に助動詞までマスターすれば、古文は得点源になる。

参考書レビュー
●古文常識
・『シグマ新国語便覧』★★★
国語に関する知識事項は大抵載っており持っておきたい参考書だが、古典常識に関しても大変充実している。

・『古文の読解』★★
文学研究者の書いた参考書。古文の世界観や語句の深みを学べる。参考書として使うというより、読み物として通読するのがおすすめ。

・『源氏でわかる古典常識』★
筆者には役に立たなかったが、余程古文常識に自信がないかつ時間をかけず勉強したいならこれが定番。

●古文単語
・『日々古文単語帳365』★★★
情報量が十分であるだけでなく練習問題も付いており大変良い。もちろん一日一語というわけにはいかないが、30語程度を一区切りに12回で1周できる。

・『マドンナ古文単語230』★★
230語というと少なく感じるが(実際難関には足りないのだが)、まずはこの一冊をしっかり読み、基本的な語彙を身につけたい。付属の暗記カードは便利だろうが練習問題等がないので定着の確認は難しい。中堅大学までならこの一冊で十分。

・『古文単語ゴロ565』★★
ふざけた参考書のように見えるが意外と良くできていてなかなか頭に残る。特に古文に興味がない受験生には大変おすすめ。

・『読み解き古文単語』★★
古文を読みながら単語を学ぶという英語でいう『速読英単語』のようなものだが、ある程度文法の知識がないとなかなか読み進められず、難しい。学べる語数は多い。難関受験生向け。

・『速読古文単語
・『読んで見て覚える重要古文単語315
未チェック。

●文法参考書
・『古典文法10題ドリル 古文基礎編
・『古典文法10題ドリル 古文実戦編』★★★
基礎固めに。筆者はこれが最も気に入ったが、類似の参考書に『ステップアップノート30古典文法基礎ドリル』『基礎からのジャンプアップノート 古典文法・演習ドリル』があり、どれも内容に大差なく基礎固めなので本屋で見て好きなものを使えば良い。

・『古文解釈の方法』★★★
やや難しい話も含まれるが、入門から難関入試まで使える一冊。難関を狙うなら通読、そうでないなら参考書として必要なところを読む。かなりおすすめで、これを読みこなせれば他に文法の学習をする必要もない。これを易しめにしたものに『古文解釈はじめの一歩―文法から解釈へ』がある。

・『読解古典文法 解法ルール36』★★
識別など、塾で教わりそうな入試対策的テクニックの載った参考書。最低限の文法を理解してから読めば役に立つ。

・『古文インプット52―文法・和歌の修辞・演習
・『「君の名は。」で古文・和歌の読み方が面白いほどわかる本
未チェックだが立ち読みした限り良さそう。

●実戦問題集
・『中堅私大古文演習』★★
標準的・実戦的な内容で、中堅私大受験生に限らず文法まで学んだ後の手始めに解くのにちょうど良い。

・『古文解釈の実践 Ⅰ』『古文解釈の実践 Ⅱ』★★
なかなか難しい。国立難関大を狙うなら『古文解釈の方法』を読みつつこなしたい。

●講読
・『理解しやすい古文』★★★
学校で読む古文はだいたいこれで学習できる。独学者の一冊目にもおすすめ。

・『解説 徒然草
・『解説 百人一首』★★
灘校の国語教諭・橋本治氏の講読本。古典に興味が出てきた、あるいは興味を持てない人におすすめ。

タグ:, , , . カテゴリー:雑記・評論・まとめ.
コメント:無し

Jan 02

塾講師が勧める学習法まとめ:高校国語知識編

2018年1月2日 朝霧

●漢字
基本的に書いて覚える。一冊を何周も学習する。2〜3周か回したら書けないものにチェックし、書けないもののみを繰り返す。
漢字の学習は語彙の学習にもなる。特に国語が苦手な場合、知らない熟語が出てきたならば漢字の練習をするだけでなく意味を調べ、用法を調べ、使える語彙にする必要がある。

上級入試漢字
・広くおすすめできる。
・最難関校受験対策として必要十分な内容。
・同音異義語、四字熟語なども必要なだけ学習できる。難易度は常識的。
・洗練されたデザインで、赤シートを用いた学習が可能。逆に解答隠しを自作することは難しく、難読語・四字熟語の書きなどは学習しにくい。

必修漢字1200選
・漢字、日本語が好きな人にはおすすめできる。
・最難関校受験対策として必要十分か必要以上の内容。
・難易度は高いが、同音異義語、故事成語、ことわざ、三・四字熟語なども学習できる。レベルの高い語彙を学べる。常用漢字表なども付いており便利(?)。
・下部に解答があり赤シートで隠せるわけでもないため解答隠しを自作する必要がある。
・不適切な例文があり単純に文意がわからず解答を書けない場合がある。

●語彙
語彙に自信のない場合、出てきた語句の意味は最低限調べ、ノートやカードに例文を写す(出典も記し、再び当たれるように)。

●文学史
出題数が多くなく、日本文学に興味がないとなかなか定着しないので、受験生としては問題だけ解いてキーワードで覚える、あるいは捨てる、といった選択肢も考えるべき。

原色 新日本文学史
・流れをつかむのに適している。情報量が多く速習には向いていない。

原色シグマ新国語便覧
・流れをつかむのに適した参考書ではないが、国語全般に関して情報量が多く、辞書代わりに手元に欲しい。

執筆中

タグ:, , , . カテゴリー:雑記・評論・まとめ.
コメント:無し