冬至

 かじかんだ手を擦り合わせながら。太陽は姿を隠し、残光だけが淡く残っていた。学校の校庭とつながっている枯れた林の中、僕は乾いた土を踏んで小走りに歩いた。早く見つけないと、おかあさんに怒られる……僕は必死だった。校庭にも、林にも、誰も見えなかった。この小さな世界に、僕と彼女だけがいたはずだ。木造校舎の職員室の明かりがついていた。それ以外に、人間の存在を感じさせる物はなかった。僕は彼女を探した。
 残光さえも消えて、星が輝きだした。彼女はどこにもいなかった。林のむこうから、犬の遠吠えが聞こえた。そのむこうの山は、黒い壁に見えた。僕はいつまでも彼女を探した。冷たい音がずっと聞こえていた。やがて校舎の明かりが消えた。
 僕はその小さな世界から、逃げ出した。


 今年の冬至は十二月二十七日らしい。十年前の今日……二十四日は終業式の日だった。僕は三両編成の国鉄列車を降り、無人駅の切符回収箱に切符と貰ってしまったコンビニのレシートをつっこんだ。駅を離れると、完全に闇に覆われた。僕は持参した懐中電灯を付け、森に囲まれた道を歩いた。黒い壁のような山がむこうに見えた。僕はこの故郷が嫌いだ。
 曇り空のため、月も星も見えなかった。やっと森を抜け、畑の間に入った。人家の明かりは見えたが、あの頃より暗くなった気がする。あの日から二日経った後、僕の家族は土地を手放し、東京に家を建て、引っ越した。
 だから、彼女があの日から行方不明であることは、今年の始めの同窓会でだった。小学二年までしかいなかった僕を招待してくれた同級生たちは、懐かしそうに彼女の話をした。
 二年間通った母校はだいぶ変わっていた。新しい校舎が立ち、職員室のあった木造校舎は明らかに使われていなかった。やはり、今日まで学校があったようだ。新校舎の明かりがついていた。
 木造校舎の扉に手をかけると、大きな音を出して開いてしまった。ほこりの匂いが強かった。僕は扉を静かに閉めた。そして早足で離れた。
 あの日、一分を数えた樹の下に立った。目を閉じ、六十秒をゆっくり数えた。風が乾いた土を舞わせた。



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