「高架」
神業堂本舗第三回コンテスト
テーマ:嘘
結果:最優秀賞
 僕は何度もここへ来る。その度に、いっそ飛び降りてしまおうか、という思いを抱き、さらに自分の弱さを思い知り、彼女の残像を夕日の中に見つけ、僕は階段を下りる。

 この高架は市街地の中にあって、通勤列車の線路を跨いでいる。僕は中学生のときからこの高架を使っていた。線路の向こうの塾に通うためだった。わりと名のある進学塾だった。
 僕は、良い頭もやる気も持っていなかった。成績を上げるつもりも、良い高校に行くつもりもなかった。僕がその塾に行こうと思ったのはただ、彼女との接点を求めていたからだった。そして彼女の勧めでもあった。
 彼女はその名のある進学塾の一番上のクラスだった。もちろん僕は一番下のクラスだったが、彼女は馬鹿にすることもなく、少しでも模試の点が上がれば褒めてくれ、難しい勉強を教えてくれた。

 二人で塾に通っていたときも、こんな夕日を見た。彼女も高架を渡るとき、この夕日に差されていた。階段を下りながら僕は思う。

 僕は彼女と付き合っていた。彼女もきっと、そう思ってくれていた。
 僕は結局、市内の県立高校に合格した。僕の家からは、この高架を使えばすぐに着く距離だった。そしてその高校のレベルは、塾に通う前までの成績と比べれば、間違いなく快挙だった。そして彼女は、通学に一時間くらいかかる、かなり上位の私立の女子高校に合格した。彼女の第一希望だったと思う。僕と彼女の二人で彼女の合格発表を見に行った。彼女は僕に飛び付き、涙を流した。

 結局あの涙は、何の涙だったのだろうか。

 彼女は抜け出した。日に差されながら、彼女はこの高架から飛び降りた。即死だったと聞いた。死体を見ることも、葬式に出ることさえもできなかった。彼女の死を、彼女の死の意味を、そのときの僕はわからなくて、ただ、なぜ彼女がいないのかだけを思った。
 そのすぐ後にあった卒業式の日に、彼女の友達だった女の子が、泣きながら僕に事実を突きつけた。その子は、彼女が妊娠していたと僕に言った。原因もすぐに思い当たった。完全に、全部、僕のせいだった。 僕は振り返り、階段を駆け上る。彼女はすでに飛び降りていた。鉄製の手すりを掴む。手に太陽の名残が伝わってくる。日はすでにほとんど暮れている。

 僕が高校に通い始めてから何日がたった日に、彼女の母親から彼女の僕宛の手紙を貰った。僕はすぐに泣き崩れた。

 電車が通る。高架は轟音とともに揺れる。恐い。あのときのように、涙が溢れる。彼女はもういない。

"" 高校合格、おめでとう! きっと、幸せな高校生生活を送ってください。私は、あんなつまらない高校に行くぐらいなら、死んでしまおう、と思います。あなたはきっと怒るでしょう? 謝っておきます。ごめんなさい。許してくださいね。今まで、本当にありがとうございました。 ""

puppet様より

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